2026年7月23日、日本酒業界にちょっとしたどよめきが走るニュースが飛び込んできました。
島根県出雲市の蔵元「天穏(てんおん)」で11年間杜氏を務めてきた小島達也氏が、板倉酒造を退職し、独立を発表したのです。しかも行き先は、日本酒ではなくクラフトサケ。
ご本人のInstagram(@itonami_touji)に投稿された発表を読んで、管理人は思わず「これは記事にしなきゃ」と手が動きました🍶 今回は、この発表の内容と、それが日本酒とクラフトサケの関係にとってどんな意味を持つのかを整理してみます。
何が発表されたのか
小島氏本人の投稿によると、要点は以下の通りです。
- 令和7酒造年度(R7BY)をもって、天穏(板倉酒造)の杜氏を退任
- 出雲大社町に、マイクロブルワリー「出雲イトナミブルワリー」を新設予定
- 運営会社として株式会社ITONAMIを設立し、代表取締役兼杜氏に就任
- 醸造開始は2026年の年明けを予定(現時点ではまだ商品は出ていません)
- 天穏との関係は円満退職で、今後は醸造顧問として引き続きサポート
25歳で出雲に来てから16年、天穏で杜氏を11年——という長いキャリアの節目での決断です。天穏はこれからも板倉家の杜氏体制のもとで酒造りが続くとのことで、小島氏はあくまで「卒業して、外から支える」立場になります。
実は5年越しの構想だった——「イトナミ」ブランドの前史
「出雲イトナミブルワリー」という名前、今回初めて聞いた方も多いと思いますが、実は「イトナミ」というブランド自体は今回が初登場ではありません。
小島氏がnoteに残していた過去の投稿を辿ると、2021年6月30日、天穏(板倉酒造)の社内で、すでに保有していたリキュール免許・その他の醸造酒免許を使って「イトナミブルワリー」という製品ラインを立ち上げていたことが分かります(【酒造】「イトナミブルワリー」について)。
当時すでに、雑穀どぶろく「KODANE」、天穏の純米酒をベースにしたリキュール「イトナミ レモン」、国産はちみつを発酵させた「イトナミ ミード」、島根医大とのコラボで生まれた「出雲人参酒・出雲薬草酒」など、清酒の枠を超えたお酒を次々と手がけていたそう。天穏・無窮天穏という清酒ブランドとは明確に区別しながら、社内で並行して育ててきたのが「イトナミ」だったんですね。
つまり今回の独立は、突然の方向転換ではなく、5年間かけて社内で温めてきた「イトナミ」ブランドを、完全に独立した会社として切り出す決断だったと理解するのが正確そうです。
しかも、その本気度を裏付けるエピソードがもうひとつ。小島氏は島根県の三瓶山(さんべさん)で、ノーブルホップ5品種(ザーツ・ゼウス・テトナンガー・ソラチエース・ノーザンブルワー)を、なんと4年がかりで自然栽培していたそうです(「イトナミビール2025 1st vintage」)。うどんこ病を乗り越えながら育てたそのホップを使い、2025年末には出雲大社BSKK「チアーズファクトリー」との協業で、瓶内二次発酵・一升瓶(1800ml)仕立てのビール「イトナミビール」もすでに完成させています。ホップの栽培から仕込みまで4年——お酒への向き合い方が、ちょっと尋常じゃないですよね😳 この取り組みは無印良品銀座ビルでの企画展「にほんのさけ展」にも発展したとのことで、天穏の外でも少しずつ実績と発信を積み重ねてきていたようです。
出雲イトナミブルワリーが目指す「にほんのさけ」
投稿の中で特に印象的だったのが、小島氏が掲げる「にほんのさけ」という思想です。
メインで手がけるクラフトサケの名前は「神在(かんざり)」。出雲大社のお膝元らしいネーミングですよね。原料には米だけでなく、五穀(米・麦・稗(ひえ)・粟(あわ)・豆)を使い、生酛・山廃のような自然の乳酸菌に頼る伝統的な酒母造り(生酛系・水もと)を主体に醸すそうです。
本人は「無窮天穏(天穏の代表銘柄)の五穀ver」とも表現していて、天穏で培った出雲杜氏としての技術を、日本酒の外側で応用していく——というイメージが伝わってきます。
実はこの「にほんのさけ」という言葉、Instagramの投稿だけだと真意が掴みにくいのですが、小島氏はnoteで自身の醸造哲学を詳しく綴っています(「にほんのさけ考」)。
管理人なりに要約すると、根っこにあるのは「地酒や御神酒(おみき)は、その土地の米・水・人の営みが溶け込んだ酒であり、単なる嗜好品ではなく、人と土地・人と人をつなぐもの」という考え方。そのうえで小島氏は「米だけを原料とした酒だけが、日本酒なのだろうか」と問いかけ、日本の営みから生まれた原料を使い、その思想に沿って造られた酒であれば、それは形を変えた日本酒=「にほんのさけ」なのではないか、という考えに至ったそうです(あくまで小島氏個人の醸造哲学として綴られたものです)。
だからこそ、五穀を使うクラフトサケ「神在」も、これから手がけるというミードやビールも、小島氏にとってはすべて「にほんのさけ」の実践という位置づけになる——独立発表の裏には、長年温めてきたこの思想があったようです。
これは「日本酒からクラフトサケへ」の珍しいケース
当ブログでは以前、「クラフトサケとは?」というピラー記事で、クラフトサケが生まれた背景を解説しました。ざっくり振り返ると——
日本では新規の清酒(日本酒)製造免許が実質的に取得できません。だから「日本酒を造りたいけれど清酒免許が取れない」造り手たちが、「その他の醸造酒」という別の免許区分で、米の酒の新しい形を模索してきた——それがクラフトサケというジャンルです。
これまでクラフトサケの担い手には、日本酒とは別のバックグラウンドを持つ方も多くいました。でも小島氏は違います。すでに清酒免許を持つ老舗蔵で11年間杜氏を務めた「本流」の造り手です。その人が、社内で5年間温めてきた「その他の醸造酒」を、あえて独立した本業として選ぶ——ご本人も投稿の中で「ここまで日本酒をやった人間がクラフトサケで独立することははじめての事例かもしれません」と綴っていましたが、管理人もそう思います。
そして何より印象的なのは、天穏を辞めるのではなく、天穏の顧問として関わり続けるという選択です。日本酒とクラフトサケを対立するものとして切り離すのではなく、両方に軸足を置きながら未来をつくっていく——これはまさに、当ブログが以前から大切にしたいと考えている「日本酒業界がクラフトサケを先輩として支え、共に発展していく」という関係性そのものだと感じました。
まとめ:続報を楽しみに待ちたい
出雲イトナミブルワリーの醸造開始は2026年の年明け予定とのことで、現時点ではまだ「神在」を飲むことはできません。管理人としては、実際に商品が出たらぜひ飲んでレビューしたいと思っています🍶
日本酒の伝統技術を身につけた杜氏が、クラフトサケという新しい舞台でどんな酒を醸すのか。出雲大社の足元から生まれる「にほんのさけ」に、これからも注目していきたいと思います。
本記事は小島達也氏のInstagram投稿(2026年7月23日、@itonami_touji)、およびnote「にほんのさけ考」「【酒造】『イトナミブルワリー』について」「イトナミビール2025 1st vintage」で公開された情報をもとに構成しています。

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