日本酒の麹とは?「黄麹」「白麹」「黒麹」の違いと、知られざる「もやし屋」の仕事まで完全ガイド

みなさん、こんにちは!SSI認定・日本酒名人の杜雄です🍶

以前、酵母の記事で「麹がお米を”糖”に変換し、酵母がそのバトンを受け取ってアルコールまで走り抜ける」という職人リレーの話をしました。今回はそのリレーの第一走者、麹(こうじ)そのものにスポットを当てます。

正直に告白すると、管理人も日本酒名人を取るまでは「麹=甘酒とか味噌に入ってるやつでしょ?」くらいの認識でした(笑)。でも調べれば調べるほど、この目に見えないくらい小さなカビが、実は国から”国菌”というお墨付きをもらった、日本を代表する微生物だと知って、認識がガラッと変わったんです。

黄麹・白麹・黒麹の違い、麹の”種”を専門に作る知られざる職人集団、そして麹室で実際に何が起きているのか——今回はそんな麹の正体を、噛み砕いてじっくり解説します!


目次

🦠 そもそも麹は何をしているの?——おさらい

まず基本のおさらいから。日本酒造りには麹と酵母という2種類の微生物が登場します。

  •  → お米のデンプンを糖(ブドウ糖)に分解する(糖化)
  • 酵母 → その糖をアルコールと炭酸ガスに変える(発酵)

麹は「司令塔」であり「翻訳者」でもある——お米という原料を、酵母が読める”言語”(糖)に翻訳してあげる役割を担っています。この2つの働きが同じタンクの中で同時に進むのが、日本酒特有の「並行複発酵」という仕組みです。

製造工程の全体像をもっと詳しく知りたい方はこちら→ 日本酒の作り方を完全解説|精米から瓶詰めまでの8工程、蔵人目線でわかりやすく

ここまでは復習。ここから先が、今回の本題です。


👑 麹菌の正体——実は「国菌」に認定された唯一の存在

麹造りに使われる麹菌の学名は Aspergillus oryzae(アスペルギルス・オリゼー)。カビの一種です。「カビ」と聞くとちょっとギョッとするかもしれませんが、これは何百年もかけて日本人が飼い慣らしてきた、安全性の確立された発酵専用の菌です。

そしてこの麹菌、実は2006年(平成18年)10月12日、日本醸造学会によって正式に「国菌」に認定されています。国花(桜)や国鳥(キジ)はよく聞きますが、「国菌」という制度があること自体、知らない方も多いのではないでしょうか。管理人も最初に知ったとき「そんなカテゴリーあったんだ!?」と声が出ました(笑)。

日本酒だけでなく、味噌・醤油・みりん・酢——日本の発酵食文化のほぼすべての土台に、この麹菌がいます。まさに「日本の食を支える縁の下の力持ち」を、国が公式に認めた形なんですね。


🎨 黄麹・白麹・黒麹——同じ麹でも、性格が全然違う三兄弟

「麹」とひとくくりに言っても、実は色によって種類が分かれています。日本酒の世界でよく登場するのが黄麹(きこうじ)・白麹(しろこうじ)・黒麹(くろこうじ)の3種類です。

種類学名主な用途特徴
黄麹Aspergillus oryzae清酒・味噌・醤油クエン酸をほとんど出さない。デンプン分解力が強い
黒麹Aspergillus luchuensis焼酎・泡盛(沖縄発祥)クエン酸を多量に生成。雑菌に強い
白麹Aspergillus kawachii焼酎(黒麹の突然変異株)黒麹と同じくクエン酸多量。扱いやすく主流に

面白いのは、この3種類、実はもとを辿ると近い親戚だということ。白麹は黒麹の突然変異から生まれた菌で、いわば黒麹の「弟」にあたります。

なぜ清酒には黄麹が主流なのかというと、黄麹はクエン酸をほとんど作らない性質があるから。日本酒はもともと涼しい気候・低温管理の中で仕込まれることが多く、雑菌対策として大量のクエン酸は必要なかった、という背景があります。

一方、黒麹・白麹は高温多湿な沖縄・九州で生まれた焼酎・泡盛用の麹。クエン酸を大量に作り出すことで、暑い環境でも雑菌からもろみを守れるという、いわば”南国仕様”の麹なんです。

近年は、この焼酎由来の白麹をあえて日本酒に取り入れる蔵も増えていて、それが夏酒特有の「柑橘っぽい爽やかな酸味」の正体になっています。

白麹とクエン酸が生み出す夏酒の爽やかさについて、もっと深掘りした記事はこちら→ 夏酒の「あの爽やかさ」の正体は酸だった。クエン酸と白麹が生み出す、夏専用の味覚革命


🌱 種麹(もやし)と”もやし屋”——麹の”種”を売る、知られざる職人集団

ここからが、今回いちばん管理人が「へえ!!」となったポイントです。

全国の酒蔵は、麹菌を毎回ゼロから自然界で採取しているわけではありません。多くの場合、「種麹(たねこうじ)」、業界では「もやし」と呼ばれる、麹菌の胞子を粉状にしたものを、専門の会社から仕入れています。

この種麹を専門に作って全国の蔵元に届けている会社が、通称「もやし屋」。豆もやしの「もやし」ではなく、麹菌の胞子そのものを指す古い呼び方です。京都の菱六(ひしろく)、大阪の樋口松之助商店、愛知の糀屋三左衛門、秋田の秋田今野商店など、全国にわずかな数しか残っていない専門業者が、日本中の酒蔵・味噌蔵・醤油蔵に種麹を供給しています。

つまり、私たちが飲んでいる日本酒の”最初の一滴”は、実はこうした専門業者が長年かけて選び抜き、培養し続けてきた麹菌から始まっている。蔵元の名前は表に出ても、この”もやし屋”さんの存在はあまり知られていません。でも、彼らがいなければそもそも麹造りが始まらない——縁の下どころか、地下深くの力持ちと言ってもいいかもしれません。


🏠 製麹の実務——麹室で2日間、何が起きているのか

「麹造り」と一言で言っても、実際の作業はかなり細かく分業されています。麹米(蒸し米の約2割)に種麹を振りかけてから、完成までのおおまかな流れはこうです。

  1. 引き込み(ひきこみ):蒸し上がった米を麹室に運び入れる
  2. 床もみ・種切り(とこもみ・たねきり):米をほぐしながら、種麹(もやし)を振りかける
  3. 切り返し:米の温度・水分を均一にするため、かき混ぜる
  4. 盛り(もり):麹菌が育ってきた米を小さな箱や布に小分けにする
  5. 仲仕事(なかしごと)・仕舞仕事(しまいしごと):温度上昇を見ながら、米を薄く広げたり積んだりを繰り返す
  6. 出麹(でこうじ):完成した麹を麹室から出す
  7. 枯らし(からし):麹の温度を落ち着かせる

この一連の作業、だいたい2日間(約48時間)かけて行われます。麹菌は発酵の過程で自ら発熱するため、ほうっておくと温度が上がりすぎてしまう。だから蔵人は数時間おきに麹室に入り、手で触って温度・水分・香りを確認しながら、ひたすら調整を繰り返します。

「麹造りが仕込みの中で一番神経を使う」と語る蔵人さんが多いのも納得です。蔵によっては、この2日間、麹室で泊まり込んで一晩中つきっきりで見守るところもあるほど。目に見えないカビの機嫌を、人間が寄り添いながらうかがっている——そう考えると、なんだかロマンを感じませんか?


🔬 突き破精と総破精——麹の”伸び方”が、酒の性格を決める

製麹の話でもうひとつ、ぜひ知ってほしいのが「破精(はぜ)」という考え方です。

麹菌は米粒の表面から中に向かって、菌糸(きんし)をどんどん伸ばしていきます。この菌糸の伸び方・広がり方のパターンを、大きく2つに分類したものが「突き破精(つきはぜ)」と「総破精(そうはぜ)」です。

  • 突き破精(つきはぜ):菌糸が米の表面には広く回らず、内部に向かって局所的に深く伸びるタイプ。酵素の働きが穏やかで、淡麗でスッキリした酒質になりやすい。吟醸酒向け
  • 総破精(そうはぜ):菌糸が米粒全体の表面まで広く回り、深く根を張るタイプ。酵素の働きが強く、甘味・旨味が豊かな濃醇な酒質になりやすい。純米酒・生酛系の酒向け

同じ米、同じ麹菌でも、麹室での温度・湿度・時間のかけ方をコントロールすることで、この破精のタイプを蔵人が意図的に作り分けています。つまり、「どんな酒質にしたいか」から逆算して、麹の育て方そのものをデザインしているわけです。

華やかでスッキリした吟醸系のお酒を飲んだとき、その裏では「突き破精」を狙って丁寧に育てられた麹が働いていたかもしれない。逆に、燗酒にしてじんわり旨味が広がるような純米酒には、「総破精」でしっかり根を張った麹が使われていたかもしれない——そう想像すると、1杯の見え方がまたひとつ変わってきます。

生酛・山廃のような濃醇な酒質の世界をもっと深く知りたい方はこちら→ 「生酛・山廃」の深すぎる沼へようこそ!野生の乳酸菌と醸造家の戦いと奇跡の話


⚖️ 麹歩合——仕込みの中で、麹はどれくらいの割合?

最後に、数字の話をひとつ。

仕込み全体に使うお米のうち、麹造りに使う「麹米」の割合を「麹歩合(こうじぶあい)」と呼びます。一般的には20%前後が目安とされていて、以前の製造工程記事でも触れた「蒸し米の約2割が麹米、残り8割が掛け米」という比率がこれにあたります。

また、特定名称酒(純米酒・吟醸酒など)を名乗るためには、法律上「こうじ米使用割合15%以上」という最低ラインが定められています(日本酒造組合中央会の公式基準)。つまり麹は、単なる”脇役”ではなく、法律上も「これ以下では日本酒として認めません」という明確な基準線を持つ、酒質の根幹を担う存在なんです。


🏁 まとめ:麹は、日本酒の”性格”を最初にデザインする存在

ここまで麹について、かなり踏み込んで見てきました。最後に整理します。

  • 麹菌(Aspergillus oryzae)は2006年に「国菌」に認定された、日本の発酵文化を支える存在
  • 黄麹(清酒向き)・白麹/黒麹(焼酎向き、クエン酸を多く生む)と、色によって性格が違う
  • 種麹(もやし)は”もやし屋”という専門業者から仕入れるのが一般的
  • 製麹は約2日間、引き込み〜出麹まで細かく分業された繊細な作業
  • 突き破精・総破精という菌糸の伸び方の違いが、淡麗系か濃醇系かを左右する
  • 麹歩合はおよそ20%前後、法律上は15%以上が特定名称酒の最低ライン

酵母が「香りと個性の最終デザイナー」だとしたら、麹は「酒質の土台を最初に決める設計者」。ただし精米歩合や酒米、最近では酵母まで書かれることが増えてきたラベルでも、麹について触れられることはほとんどありません(唯一の例外が、夏酒の「白麹仕込み」のようにあえてアピールポイントとして書かれるケースです)。

名前も出ない、ラベルにも載らない。それでも、目に見えないくらい小さなカビが、グラスの中身の性格をいちばん最初に決めている——そう知っているだけで、今飲んでいる1杯の味わい方が、また少し深くなるはずです🍶

それでは、今日も元気に、乾杯!🍶✨


・20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
・お酒は適量を守ってお楽しみください。
・妊娠中や授乳期の飲酒は胎児・乳児の発育に悪影響を与える恐れがあります。

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