管理人、飲む前から既にちょっと震えていました。
なぜかというと——このお酒、全国の日本酒をある意味「作った」蔵から来ているんです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、これは本当の話。 今回飲んだのは、長野県諏訪市の老舗・宮坂醸造(ブランド名:真澄)が手がける「純米樽酒」。
「真澄?知ってる知ってる、諏訪の銘酒でしょ」——そう思った方、もう一歩だけ掘り下げてほしいんです。この蔵には、日本酒業界全体を変えた、ある「事件」があります。
商品紹介

🍶 「7号酵母の故郷」という、途方もない事実

少し歴史の話をさせてください。
日本酒造りには酵母が欠かせません。酵母がなければ、糖をアルコールに変換できない。酒にならない。
現在、日本全国の酒蔵の大多数が使っている酵母のひとつが「協会7号酵母」です。華やかな吟醸香(りんご・洋梨のような香り)を生み出しやすく、扱いやすく、安定している——戦後の日本酒の品質向上を支えてきた、まさに「縁の下の力持ち」な酵母です。
この7号酵母、どこで生まれたと思いますか?
長野県諏訪市の、宮坂醸造です。

昭和21年(1946年)、この蔵の仕込み蔵から採取された酵母が、全国酒造組合中央会(現・日本醸造協会)を通じて全国に配布されました。今や「7号の末裔」とも言える酵母が、各地の蔵に根付いている。つまり宮坂醸造は、日本酒業界全体の「酵母の親」とも言える存在なんです🍶
そしてもうひとつ。宮坂醸造は寛文2年(1662年)創業。今年で364年を迎えます。江戸時代初期から連綿と醸し続けてきた蔵が、現代でも自社株の7号系酵母を大切に継承しながら酒を造っている——管理人、この事実を知ったとき、グラスを持つ手がすこし重くなりました(ポジティブな意味で)。
基本情報

- 銘柄:純米樽酒720ml
- 製造会社:宮坂醸造株式会社
- 使用米:―
- 精米歩合:70%
- アルコール度:15度
- 日本酒度:ー
- 特定名称:純米酒
- 酵母:7号系自社株酵母
- 杜氏:―
- 製造日:2026.03
- 内容量:720ml
- 価格:¥2118(税込み)
精米歩合70%は、純米酒の特定名称酒に認められるギリギリの上限値。コメをそれほど削らず、米のうま味・栄養をたっぷり残した状態で醸している。「米を生かす」という真澄の哲学が、この数字に凝縮されています。
そこにさらに樽熟成が加わる。米のうま味を最大限に引き出した純米酒を、木樽でじっくり寝かせる。この組み合わせが、あとで語るあの香りの正体です。
特定名称酒の「精米歩合」ってなんだっけ?という方は → 「お米を削る魔法」と「8つの呪文」:特定名称酒と精米歩合のディープな話
🪵 「樽酒」って何が違うの?
樽酒とは、日本酒を木製の樽(たる)に入れて熟成・貯蔵したお酒のこと。
使われる木材は主に杉(スギ)や檜(ヒノキ)。樽の木が持つ香り成分が液体にじわじわと溶け出し、日本酒独特の「木の香り」「清涼感のある香ばしさ」が生まれます。
昔の日本酒は、醸造・輸送・保存すべてが木樽で行われていました。江戸時代、灘(兵庫)から江戸へ海路で運ばれた酒は「下り酒」と呼ばれ、船旅の揺れと樽の香りが酒に個性を与えていた。今で言う「樽酒」は、その古き良き香りを現代に意図的に再現した、いわば日本酒の記憶を飲む体験です。
ただし、樽香は個性が強い。フルーティーな吟醸系に慣れた現代の舌には、「え、これ日本酒?」と感じさせる香りでもあります。好き嫌いが分かれるところですが、ハマると抜け出せない沼のひとつでもある🍶
真澄は以前も「あらばしり 樽酒」でこの路線を見せてくれました。今回の純米樽酒は、よりベーシックな純米スペックで、樽の香りと米の旨味がどう交わるかを楽しむ一本です。
なお、この純米樽酒は蔵元限定品です。一般の酒販店や通販では基本的に手に入りません。管理人は諏訪5蔵めぐりの際に宮坂醸造を訪れ、その場で購入しました。
「蔵に行かないと買えない」という不便さも含めて、このお酒の魅力のひとつだと思っています。諏訪に行く予定がある方はぜひ立ち寄ってみてください——宮坂醸造は諏訪大社上社のすぐそばにあります🍶
諏訪5蔵めぐりのレポートはこちら → 500mに5蔵!上諏訪の酒蔵めぐりをコスパ最強の3,000円で完全制覇してきた
同じ宮坂醸造の樽酒をもう一本知りたい方は → 真澄 あらばしり 樽酒レビュー
テイスティングシート
*個人の感想です
外観(清澄度)
| 透明感がある | 霞んだ | 濁った |
| その他 | ||
外観(濃淡)
| 無色に近い | 淡い | やや淡い |
| やや濃い | 濃い | |
| その他 | ||
外観(色調)
| クリスタル | ゴールド | シルバー |
| グリーン | イエロー | トパーズ |
| オレンジ | ブラウン | |
| その他 | ||
香り(第一印象)
| 若々しい | さわやかな | 華やかな |
| ふくよかな | 芳醇な | おだやかな |
| 熟成香を感じる | その他 | |
香り(特徴)
| グレープフルーツ | りんご | 洋梨 |
| 白桃 | バナナ | メロン |
| パイナップル | マスカット | ライチ |
| スイカズラ | スミレ | アカシア |
| 菩提樹 | セルフィーユ | 青竹 |
| 新緑 | 紅茶 | 月桂冠の葉 |
| ヒノキ | 香木 | ゴボウ |
| 朝鮮人参 | マッシュルーム | 椎茸 |
| 丁子 | シナモン | ビターチョコ |
| 栗 | クルミ | アーモンド |
| 炊いた米 | つきたての餅 | 上新粉 |
| 白玉団子 | 杏仁豆腐 | 生クリーム |
| サワークリーム | ヨーグルト | 発酵バター |
| クリームチーズ | 粘土 | 腐葉土 |
| 石灰 | カラメル | コーヒー |
| 醤油 | ヨード香 | 蜂蜜 |
| スモーク香 | カビ | タマネギ |
| 熟成チーズ | その他 | |
味わい(第一印象)
| 軽い | やや軽い | やや強い |
| 強い | その他 | |
味わい(甘味)
| 弱い | 上品な | まろやかな |
| ふくよかな | 強い | |
| その他 | ||
味わい(酸味)
| 爽やかな | 優しい | 丸みがある |
| なめらかな | きめ細かい | シャープな |
| しっかりとした | 力強い | |
| その他 | ||
味わい(苦味)
| 控えめ | 穏やかな | コクを与える |
| 旨味がある | 強い | |
| その他 | ||
味わい(バランス)
| スムースな | ハツラツとした | ドライな |
| まろやかな | ねっとりとした | コンパクトな |
| フラットな | 芳醇な | 厚みのある |
| 力強い | その他 | |
味わい(余韻)
| 短い | やや短い | やや長い |
| 長い | その他 | |
テイスティングコメント
*個人の感想です
🎨 Tasting Experience:森の静けさと、奥深い米の力
✨ Visual:清澄でゴールドがかった、落ち着いた液体
グラスに注ぐと、ほぼ無色に近いゴールドの液体が広がります。
透明感はあるものの、きらきらとしたクリスタル系ではなく、少し落ち着いた色づき。「若い酒の透明感」ではなく「ほどよく熟成した穏やかな色」——樽で寝かせた酒の落ち着きが、外観にも出ている気がします。
🌿 Nose:針葉樹の森を抜けた先に、アーモンドの香ばしさ
第一印象は「おだやか」、そして「熟成香を感じる」。
最初の一嗅ぎで、管理人が思ったのは「どこかの神社の境内に来たみたいだ」ということでした。
前に出てくるのはヒノキと香木のニュアンス。これが樽熟成由来の香りそのもの。フルーティーではない、植物的で清涼感のある、でも華美ではない香り。そこにアーモンドの穏やかな香ばしさが重なって、全体が「静かな木立の中にいるような」印象になります😌
加えて椎茸——これは旨味系の発酵香に近い。フルーツ香が皆無なわけではないけれど、それよりずっと「だし」「うま味」に近い方向の複雑さがある。典型的な吟醸香とは全然違う、深くて渋い香りのプロファイルです。
「派手な香りが好きか?」と聞かれれば、そうではない。でも「雰囲気があるか?」は、めちゃくちゃある!!
樽香が際立つ「あらばしり 樽酒」と比べると、こちらはより穏やか。木の香りが前に出すぎず、米の旨味と静かに同居している印象です。
🍽️ Palate:厚みのある力強さ——米の旨味と樽香が、静かに溶け合う
口に含んだ瞬間、「やや強い」という第一印象がきました。アルコール感というより、存在感の強さ。米の重さ、ボディの厚み——そういうものがどっしりと最初に来る。
甘みはまろやかなタイプ。上品さや繊細さというよりは、米由来のふくよかな甘みがじんわりと広がる感じ。砂糖の甘さとは全然ちがう。「食事のなかで、気づいたら何杯も飲んでいる」タイプの甘みです。
苦みは控えめ。かすかに後口で感じる程度で、むしろ全体を締める役割をしている印象です。
そしてバランスが——厚みのある+力強いというダブルパンチ。これ、70%精米の純米酒の中では相当濃密な部類に入ります。「日常の食中酒」というより「それ自体を主役にして向き合える酒」と言いたくなる存在感。
余韻は長い。飲み込んだ後も、米の旨味とヒノキ・香木のニュアンスがじわじわと続きます。この余韻の奥行きは、樽熟成が時間をかけて引き出したものだと思います。「急がない」酒です🍶
🍽️ ペアリング提案
「厚みのある×力強い+樽の香ばしさ」というプロファイルに合う料理はこちら:
- 豚の角煮 — 甘辛く煮た脂の旨みと、酒の力強さがガチンコで向き合う。樽の香ばしさが脂をすっきり流してくれます
- 焼き鳥(タレ) — 炭火の香ばしさ×ヒノキ・アーモンドの香ばしさ。香り同士が共鳴して、互いを引き立てます
- 白和え・豆腐田楽 — 余韻の長さが、大豆の優しい旨みをゆっくり包んでくれる。静かに向き合いたい夜のペアリング
- 塩辛・くさや — 発酵食同士の組み合わせ。椎茸のような旨味系の香りが、強めの発酵食とびっくりするくらい合います
温度帯は常温〜ぬる燗(20〜40℃)がおすすめです。ぜひ熱燗にも挑戦してみてください——隠れていた旨味がジュワッと溢れ出して、樽の香りとの一体感がさらに増します!!
こんな人に特におすすめ:
- 「フルーティーな日本酒より、骨太な旨味系が好き」という方——このお酒はあなたのためにあります
- 日本酒の歴史や背景に興味がある方——7号酵母と樽酒の歴史を知ると、一杯の重みが変わります
- 燗酒が好きな方——燗にすると全然ちがう表情を見せてくれます。ぬる燗・上燗あたりが特においすすめ
- 「日本酒ってよくわからない」という段階を卒業して、「次の段階の酒」を探している方——旨味主体の個性派純米酒として最適です
テイスティングの読み方が気になった方は → 日本酒テイスティング完全ガイド|初心者でも”言葉にできる”楽しみ方
お酒を呑み終えて
実はこのお酒、飲んだのはずいぶん前のことです。
管理人はテイスティングのたびに必ずシートを書きます。外観、香り、味わい——ひとつひとつ丸をつけて、コメント欄に走り書きして、日付を書いて終わり。でも記事になるのは、そのうちのほんの一部だったりする。シートだけが積み上がって、記事にならないまま時間が過ぎていくお酒も、正直、少なくない。
このお酒もそうでした。
それでも今回、記憶をたどりながらキーボードを叩いたのは——このお酒の体験を、ちゃんと言葉にして残したかったからです。
諏訪5蔵めぐりの帰り道、荷物に入れて持って帰ったこと。蔵元でしか買えない一本を開けたときの、あの「やっと飲める」という感覚。ヒノキと香木のあの香り。「神社の境内みたいだ」と思ったこと。飲み込んだ後も続く、じわじわとした余韻の長さ。テイスティングシートの丸印を見返したとき、そのときの感覚がちゃんとよみがえってきた。
シートって、記憶の栞なんだなと思います。
どんなに時間が経っても、丸のついた項目を指でなぞれば、あのときの香りと温度と、グラスを傾けていた自分の感覚が戻ってくる。言葉にできなかった部分まで含めて、ちゃんとそこに残っている。
そういえば、管理人は樽酒を見かけると反射的に手が伸びます。癖が強くて好みが分かれるのはわかっている。でも、あのヒノキと香木の香りが好きなんですよね。「好きなものは好き」という、それだけの話なんですが😂
テイスティングを続ける理由のひとつは、きっとこれです。自分が何を好きかを、少しずつ言語化できるようになること🍶
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