みなさん、こんにちは!SSI認定・日本酒名人の杜雄です🍶
居酒屋でお酒の裏ラベルをじーっと見ていて、こんな表記を見たことはありませんか?
「酵母:協会9号」 「使用酵母:7号系」
原料米や精米歩合は何となくわかるけど、この「酵母の番号」だけは正直よくわからない……という方、多いと思います。管理人も日本酒名人を取るまでは「酵母? まあパン作りのイースト菌みたいなものでしょ?」くらいの認識でした(笑)。
でも実はこの番号、同じ酒米・同じ精米歩合でも、酵母が変わるだけで別のお酒になってしまうというくらい、お酒の個性を決める重要な要素なんです。今回はそんな「酵母の番号」の正体を、噛み砕いて徹底解説します!
🧫 そもそも酵母って何をしているの?
まずは基本のおさらいから。
日本酒造りには、麹(こうじ)と酵母(こうぼ)という2種類の微生物が登場します。
- 麹 → お米のデンプンを糖(ブドウ糖)に分解する(糖化)
- 酵母 → その糖をアルコールと炭酸ガスに変える(発酵)
つまり、麹がお米を「糖」というバトンに変換し、酵母がそのバトンを受け取って「アルコール」というゴールまで走り抜ける——そんな職人リレーが、ひとつのタンクの中で同時に進行しているんです(この同時進行のしくみは「並行複発酵」と呼ばれ、日本酒特有の技術です)。
麹と酵母の役割、製造工程全体の流れをもっと詳しく知りたい方はこちら→ 日本酒の作り方を完全解説|精米から瓶詰めまでの8工程、蔵人目線でわかりやすく
この「バトンを受け取って走る酵母」、実はどの酵母を使うかによって香りの種類・強さ・味わいの傾向がガラッと変わります。フルーティーな香り、控えめで上品な香り、旨味たっぷりの濃醇な味わい……その違いを生み出す最大の要因のひとつが、酵母なんです。
🔢 なぜ「番号」で呼ばれるの?——協会酵母の正体
日本酒のラベルでよく見る「協会◯号酵母」「きょうかい◯号」という表記。この「協会」とは、公益財団法人 日本醸造協会のことです。
明治39年(1906年)、日本醸造協会は神戸・灘の蔵から良質な清酒酵母を分離することに成功し、全国の酒蔵への頒布(はんぷ=配布のこと)を開始しました。それから今年で120年以上。全国各地の銘醸蔵から優れた酵母を選び抜いては番号を振り、純粋培養して配ってきた——これが「協会酵母(きょうかい酵母)」の正体です。
つまり協会酵母とは、全国の蔵が安心して使える”公式に認定された優良酵母”のブランド名のようなもの。ワイルドな野生酵母だけに頼ると、発酵の安定性や再現性にリスクがあるため、多くの蔵がこの協会酵母を軸に酒造りをしています。
番号は基本的に「発見された順」
番号は原則、酵母が発見・分離された順番に振られています。ただし面白い例外もあって、たとえば9号酵母は8号酵母より先に発見されていたのに、協会からの頒布開始が8号より後だったため「9号」という番号になったというエピソードもあります。律儀に発見順というより、「協会が正式に配布を始めた順」に近いイメージですね。
「01」がつくのは”泡なし酵母”
601号、701号、901号のように、番号の末尾に「01」がつく酵母を見たことがあるかもしれません。これは元の酵母(6号、7号、9号など)から分離された**「泡なし酵母」**という変異株です。
発酵中、酵母は液面にモコモコとした高い泡を作ることがあり、これを放っておくとタンクから溢れてしまいます。昔はこの泡消し作業を人力で行っていましたが、「泡を作らない」性質を持つ酵母を使えば、この手間がまるごと不要に。今では多くの蔵が、この扱いやすい「泡なし酵母」を採用しています。
📖 杜雄的・主要酵母図鑑
それでは、実際に多くのお酒に使われている代表的な協会酵母を見ていきましょう!(分離源・分離年は日本醸造協会の公式データに基づきます)
| 号数 | 分離源 | 分離・実用年 | 香り・味わいの特徴 |
|---|---|---|---|
| 6号 | 秋田・新政酒造 | 昭和10年(1935年) | 発酵力が強く、香りは穏やかでまろやか。淡麗な酒質に最適。現存する協会酵母の中で最も古株 |
| 7号 | 長野・宮坂醸造「真澄」 | 昭和21年(1946年) | 華やかな香りで吟醸用・普通醸造用まで幅広く対応。現在、最も多く使われている酵母 |
| 8号 | (変異株) | ― | 酸が多く、濃醇な味わいをもたらす。現在は協会からの頒布自体は終了しているが、今も複数の蔵が自家培養で使用中 |
| 9号 | 熊本県酒造研究所「香露」 | 昭和28年(1953年) | 短期間の醪(もろみ)で華やかな香りと高い吟醸香。1990年代後半まで鑑評会出品酒の定番だった横綱格 |
| 10号 | 東北地方の醪 | 昭和27年(1952年) | 低温長期発酵で酸が少なく、吟醸香が高い |
| 11号 | 7号の変異株 | 昭和50年(1975年) | 醪が長期になっても切れが良く、アミノ酸が少ない |
| 14号 | 北陸地方の醪(金沢酵母) | 平成3年(1991年) | 酸が少なく、低温中期型の醪経過。特定名称酒に適す |
| 1801号 | (改良株) | 平成18年(2006年) | 華やかな吟醸香を生む2種類の香り成分をバランスよく生成。全国新酒鑑評会の大吟醸部門で圧倒的な採用率を誇る”現役エース” |
🍏 6号:すべての協会酵母の「最長老」
きょうかい酵母の中で今も現役の最古参が、この6号酵母。秋田の新政酒造から生まれ、「新政酵母」とも呼ばれます。協会の公式スペック上は「香り控えめ・淡麗」がお手本の性質ですが、近年は新政酒造をはじめ、あえてその長所を引き出してフルーティーに仕上げる蔵が増え、注目度が再燃しています。”地味な最長老”かと思いきや、実は化ける酵母でもあるんです。
🌸 7号:現在いちばん使われている酵母
宮坂醸造の「真澄」から分離されたため「真澄酵母」とも呼ばれる7号は、現在、協会酵母の中で最も広く使われている酵母です。華やかな香りを持ちながら、普通醸造酒にも吟醸酒にも対応できる万能さが支持されている理由。
7号酵母発祥蔵・宮坂醸造の純米樽酒レビューはこちら→ 真澄「純米樽酒」レビュー|蔵元限定・樽の香りが記憶に刻まれる、諏訪の個性派純米酒
🍯 8号:頒布終了なのに、今も愛され続ける酵母
ちょっと変わり種なのが8号酵母。すでに協会からの正式な頒布は終了しているのですが、酸が多く濃醇な味わいを生み出すことから、今も複数の蔵が自家培養して使い続けています。「公式には手に入らないのに、根強いファンがいる」——そんな渋い酵母です。
🏆 9号:かつての”鑑評会の主役”
熊本の「香露」から分離された9号は、7号と並ぶ横綱格。短期間の醪で華やかな吟醸香を生み出す実力が評価され、より香りの強い酵母が登場する1990年代後半までは、全国新酒鑑評会の大吟醸酒といえば9号一色だったといわれています。「熊本酵母」「香露酵母」とも呼ばれます。
🥇 1801号:今の鑑評会シーンを支配する”現役エース”
近年の鑑評会シーンで圧倒的な存在感を放つのが1801号。平成18年(2006年)に頒布が始まって以降、全国新酒鑑評会の大吟醸酒部門ではこの酵母を使った出品酒が金賞を席巻するようになりました。9号が「かつての横綱」なら、1801号は「今の横綱」といえる存在です。
🍶 実際に飲んで感じた酵母の個性
管理人はこれまで、酵母表記が明記された何本かの日本酒を実際にテイスティングしてきました。
秋田・山本酒造店の「山本 6号酵母」は、新政酒造から直々に譲り受けた6号酵母を、白神山地の湧き水で仕込んだ一本。黄色いリンゴやパイナップルを思わせる香りに、きめ細かくシャープな酸味が印象的でした。「発酵力が強く、まろやか」という6号の教科書的な性質が、現代的なクリアな酒質と組み合わさると、こんなにジューシーな酒になるのかと驚いた記憶があります。
レビュー全文はこちら→ 山本 6号酵母 純米吟醸 生原酒 —— 伝説の「6号」が秋田で覚醒した瞬間。
一方、愛知・伊東株式会社の「敷島 山田錦」は8号酵母を使用。青りんごや洋なしのような香りの奥に、ヨーグルトを思わせる懐かしさが漂う個性的な一本でした。頒布終了という”渋さ”を感じさせない、独特の存在感のある酵母だと感じています。
レビュー全文はこちら→ 敷島 山田錦 8号酵母
同じ「純米酒」「純米吟醸」というくくりでも、酵母が変わるだけでここまで印象が違う——これが、酵母を意識してお酒を選ぶ面白さだと思います。
🏷️ ラベルの酵母表記、こう楽しもう
「じゃあ結局、何を見ればいいの?」という方のために、選び方のヒントをまとめます。
- フルーティーで華やかな香りを楽しみたいなら → 7号・9号・1801号あたりが狙い目。特に1801号は、近年の”香り系”トレンドを牽引する酵母です。実は6号も要注目で、本来は「香り控えめ・淡麗」がお手本の性質ですが、新政酒造をはじめ近年はあえてその長所を引き出し、フルーティーな酒質に仕上げる蔵が増えています(山本 6号酵母もその好例)
- まろやかで穏やか、食事に合わせやすい酒を探しているなら → 10号系は淡麗で主張しすぎない仕上がりが多い傾向。教科書的には6号もここに含まれますが、上記の通り仕込み次第で化けるので、蔵によってかなり幅があります
- ちょっと個性的な、濃醇タイプに出会いたいなら → 8号のような”渋い”酵母を使った蔵を探してみるのも一興
もちろん、同じ酵母を使っていても、酒米・精米歩合・仕込み方によって味わいは大きく変わります。「この酵母だから絶対この味」と決めつけず、「この酵母らしさが、この蔵ではどう表現されているか」を楽しむのが、酵母を知ったあとの新しい飲み方だと思います。
🏁 まとめ:酵母は、お酒の「声」を決める存在
麹がお米を糖に変え、酵母がその糖をアルコールに変える——このリレーの中で、香りと個性を最終的にデザインしているのは酵母です。同じ蔵、同じ酒米でも、酵母をひとつ変えるだけで、まったく別の「声」を持つお酒になる。
次にお酒のラベルを見るときは、ぜひ酒米や精米歩合だけでなく、「使用酵母」の欄にも目を向けてみてください。「あ、これ7号だ」「9号か、鑑評会でよく見る酵母だな」——そんな気づきが増えるだけで、1杯の楽しみ方がぐっと広がりますよ🍶
それでは、今日も元気に、乾杯!🍶✨
🍶 関連レビュー
📚 日本酒をもっと知りたい方へ
🔗 日本酒の作り方を完全解説|精米から瓶詰めまでの8工程 🔗 「お米を削る魔法」と「8つの呪文」:特定名称酒と精米歩合のディープな話 🔗 夏酒の「あの爽やかさ」の正体は酸だった

コメント