クラフトサケとは何かを解説したとき、管理人はこう書きました。
「搾らずに瓶詰めしたどぶろくも、クラフトサケの一つです」と。
すると、こんな疑問が浮かんできます。「じゃあ、どぶろく=クラフトサケってこと?」
正直に言うと——半分正解で、半分不正解です。今回は、この2つの言葉の関係を、「免許」という法律の入り口から整理していきます。
30秒でわかる結論
- どぶろくは、こす工程を経ない酒の呼び名。法律上の正式名称は「濁酒(だくしゅ)」で、「その他の醸造酒」に分類される
- クラフトサケは、クラフトサケブリュワリー協会が掲げる新ジャンルの総称。どぶろくスタイルも含むが、ホップ・フルーツ・コーヒーなどを使うものも含む、もっと広い概念
- 両者が重なるのは「その他の醸造酒」という分類の中でだけ。しかも免許を取る”入り口”がそもそも違うケースがある——ここが今回いちばん伝えたいポイントです
おさらい:なぜ両方とも「その他の醸造酒」になるのか
前回の記事で詳しく解説した通り、清酒と名乗るには「原料は米・米麹・水」「こす工程を経る」という条件を満たす必要があります。
どぶろくは、この2条件のうち「こす工程」を経ないため「その他の醸造酒」に。ホップやコーヒーを加えたクラフトサケの多くは「原料」の条件から外れて「その他の醸造酒」に。外れた条件は違うのに、行き着く分類は同じ、というのが最初のポイントです。
たとえば楽器正宗「alternative」は、見た目こそ「クリスタル〜シルバー」と評したくなるほど透き通っていて、こす工程はしっかり経ています。それでも蜂蜜やホップという原料のせいで「その他の醸造酒」に区分される——見た目が澄んでいても該当する、という好例です。
どぶろくには「二つの顔」がある
ここからが本題です。どぶろくには、実は二つの顔があります。
顔①:歴史ある自家醸造の呼び名
どぶろくは、もともと家庭や地域で古くから造られてきたお酒です。ただし現在の酒税法では、免許を持たずに酒を造ることは禁止されています。これは一般家庭にも例外なく適用されるルールで、「昔ながらのどぶろく」を無免許で仕込むことは今も違法です。
顔②:「どぶろく特区」という現在の制度
もう一つの顔が、2003年に始まった構造改革特別区域法による「酒税法の特例」、通称どぶろく特区です。国税庁の公式Q&Aによると、この特例が適用されるのは次のようなケースです。
農家民宿や農園レストランなど「酒類を自己の営業場において飲用に供する業」を営む農業者が、特区内の自己の酒類製造場で「濁酒」又は「果実酒」を製造しようとする場合(国税庁公式サイトより)
噛み砕くと、こういうことです。
農家民宿や農園レストランを営む農業者さんが、「自分のお店で振る舞うため」にどぶろくを仕込む場合に限り、通常の酒類製造免許で必要な”最低製造数量基準”が適用されない。
この最低製造数量基準、通常は年間6キロリットル(一升瓶で約3,300本)という水準です(長岡市公式サイトより)。個人や小さな農家がいきなりクリアできる量ではありません。どぶろく特区は、この高いハードルを「地域振興」という目的のために外した、いわば限定ルートなんです。
ここで一つ、誤解しやすいポイントを訂正しておきます。「特区だから免許なしで自由に造れる」わけではありません。どぶろく特区はあくまで「免許を取りやすくする制度」であって、酒類製造免許そのものは特区内でも必ず必要です。無免許でどぶろくを造った場合、たとえ自分で飲む分だけでも酒税法違反となり、10年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になり得ます(酒税法第54条第1項、波佐見町公式サイトより)。
ちなみに、法律の条文にはそもそも「どぶろく」という言葉は出てきません。正式名称は「濁酒」。私たちが親しんでいる呼び名は、あくまで通称なんですね。
クラフトサケは、別の入り口を選んでいる
一方、前回のクラフトサケ解説記事で紹介した新潟のLAGOON BREWERYは、国内向けの酒造りにあたって「その他の醸造酒」免許で挑戦する道を選んだと公式サイトで明かしています。
これは、どぶろく特区の「農家民宿・農園レストラン」という条件とは別の、通常の「その他の醸造酒」製造免許のルートです。地域や業態の縛りがない代わりに、最低製造数量基準はきちんとクリアする必要があります。
つまり——
- どぶろく特区は「自分のお店で振る舞うため」に基準を緩めた特別ルート
- クラフトサケの多くが選ぶのは「全国に流通させるため」の通常ルート
同じ「その他の醸造酒」という着地点でも、そこにたどり着くまでの道のりはまったく別物なんです。
表で整理してみる
| どぶろく特区のどぶろく | 一般的なクラフトサケ醸造 | |
|---|---|---|
| 免許の入り口 | 構造改革特別区域法の酒税法特例 | 通常の「その他の醸造酒」製造免許 |
| 主な想定 | 農家民宿・農園レストランを営む農業者 | クラフトサケブリュワリー協会加盟の醸造所など |
| 想定される提供の形 | 自己の営業場(宿・レストラン)で飲用に供する | 瓶詰めして流通・販売 |
| 原料 | 濁酒(または果実酒) | 米麹ベースに、ホップ・フルーツ・コーヒーなど幅広い副原料 |
※どぶろく特区は自治体ごとの特区計画に基づく制度のため、細かい要件は地域によって異なります。上表はあくまで国税庁公式Q&Aに基づく一般的な整理です。
じゃあ「DOBUROKU」と名乗るクラフトサケは何なのか
当ブログでレビューした稲とアガベ「DOBUROKU〈破〉参」は、まさにこの「どぶろく」という言葉を商品名に冠したクラフトサケです。
ここで整理しておきたいのは、ラベルの「DOBUROKU」が指しているのは”こさない製法というスタイル”であって、”免許の種類”ではない、ということ。特区ルートで造られたどぶろくも、通常のその他の醸造酒免許で造られた「どぶろくスタイル」のクラフトサケも、消費者が瓶を見ただけでは区別がつきません。
見た目や製法は似ていても、その裏側にある免許のルートは、蔵ごと・商品ごとに違う——そう捉えておくと、混乱せずに済みます。
どぶろく特区は、今も動いている制度
どぶろく特区は2003年開始の制度ですが、決して「昔の話」ではありません。2026年3月27日には、長崎県の波佐見町が県内5番目のどぶろく特区として新たに認定を受けたばかり。「陶農の里」として知られる土地で、やきものの歴史と地元産の米で造るどぶろくを結びつけ、地域振興につなげる取り組みが始まっています。
また、県内で最初にどぶろく特区の認定を受けた広島県北広島町は、2026年に認定から20年の節目を迎え、NHK広島の特集で取り上げられました。長年地元で振る舞われてきたどぶろくが、今は町の外へと販路を広げつつあるといいます。
新しい認定が今も生まれ、老舗の特区は次のステージに進もうとしている——どぶろく特区は、地域と米の関係を今なお静かに更新し続けている制度なんです。
まとめ
最後に、今日のポイントをおさらいします。
- どぶろく=こす工程を経ない酒の名前。法律上の正式名称は「濁酒」で「その他の醸造酒」に分類される
- どぶろくには、歴史ある自家醸造の文脈と、2003年開始の「どぶろく特区」という地域振興目的の免許ルートという、二つの顔がある
- どぶろく特区は「自分の宿・レストランで振る舞うため」の限定ルート。一方、クラフトサケの多くは全国流通を見据えた通常の「その他の醸造酒」免許を選んでいる
- ラベルの「DOBUROKU」は製法のスタイル名。免許の種類を意味するわけではない
「どぶろく=クラフトサケ」と単純化してしまうと、この免許ルートの違いが見えなくなります。同じ言葉、似た見た目のお酒でも、法律という舞台裏を覗くと、まったく違う道のりを歩んできた——そんな発見も、クラフトサケを追いかける楽しみの一つだと管理人は思います。
本記事の情報は2026年7月時点のものです。どぶろく特区の詳細は国税庁の公式資料をご確認ください。

コメント